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イノベーション

伝統産業の常識「曲げて」成長 – 能作のイノベーション

501404_KAGO_square_LL参照:501404 KAGO – スクエア – LL

金属でありながら、手で好きなように曲げて形を変えられる食器が注目を浴びている。もともとは仏具や花器などを手がけていた鋳物メーカー「能作」が、伝統産業の殻を破り挑戦を続けている。

日経ビジネス9/25号に掲載されたコラム「フロントランナー 小なれど新」より、イノベーションの源泉について考察する。

記事サマリ

富山県にある鋳物メーカー能作の新社屋に、大勢の観光客が押し寄せている。商品の展示・販売スペースのほか、工場見学や製造体験コーナーまで併設され、産業観光施設となっている。オープンからわずか4ヶ月弱で、4万2千人以上が訪れた。

展示しているのは昔ながらの商品ではなく、自社で商品化したぐい飲みなどの食器やインテリア雑貨だ。素材は錫(すず)で、抗菌性が高く、曲げやすい特徴を持つ。

もともとは仏具や茶道具などを作る下請け会社だったが、職人の地位を高め、自社のことを知ってもらうために自社商品を手がけるようになった。きっかけは東京で開催した展示会。自社の技術をPRするため真鍮製のベルを売っていたが、売れない日々が続いていた。一人の店員が「能作のベルはきれいでスタイリッシュ。だから、風鈴にしたらどうですか。」と提案。そのアイデアを取り入れたところ、大ヒット。そこから店員の声を活かした商品作りが始まった。

その中から今の能作を代表する錫の食器も生まれた。錫はやわらかく、通常は金属特有の硬さを出すために、他の素材を混ぜる。錫100%の食器は世界に存在しなかったが、能作の社長は逆にそこに革新性を感じた。錫100%の食器は人気を集め、順調に売上高を伸ばしている。

考察

食器は硬いのが当たり前、錫はやわらかいから他の素材と混ぜるのが当たり前。業界に長くいればいるほど、その常識にとらわれがちだ。スマホが生まれる前、携帯電話にボタンがあるのは常識だった。Airbnbが生まれる前、宿泊は旅館やホテルでするのが常識だった。業界に身を置いている人が、この常識に疑いの目を向けるのは難しい。これが社内からイノベーションが生まれにくい理由でもある。

能作の社長は、もともとカメラマンという全く別の業界の人であった。それが、鋳物業界の常識にとらわれずにいることができたひとつの理由であろう。「結局すごいのは社長ではなく、アイデアを思いついた現場の社員じゃないか」という声も聞こえてきそうだが、その何気ない一言を聞き逃さずにビジネスチャンスと捉えた社長のセンスなくしてこの成功はあり得ない。

消費者に近い現場の社員の声に耳を傾け、謙虚に意見を取り入れる、そして業界の常識にとらわれずに疑いの目を向ける。イノベーションを生み出すヒントは能作から垣間見ることができる。

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